■研究趣旨
三陸地域の復興および持続可能な地域づくりには、域外との交流の活性化も不可欠です。しかし、今回の東日本大震災では、救命・救援活動や復旧・復興において、三陸を中心とする太平洋沿岸地域における交通体系の脆弱性が明確になりました。具体的には陸上交通が寸断され代替交通がない、さらに新幹線、飛行機などの高速交通体系が未整備で、まさに陸の孤島で支援にも大きな支障を来しました。今後の復興計画での地域づくりとともに、災害に強くかつフェールセーフを考慮した新たな総合交通体系の整備が必須で、地域における新たな交流の創出を担う都市間交通の整備が必要と考えます。
そこで、三陸地域へのアクセス向上を目的として、三陸海岸の入江等を活用した水上空港の整備を提案いたします。三陸を中心とする太平洋沿岸地域は津波の常習的襲来地である一方、このリアス式海岸特有の湾が陸深く入り込んで、日常は静水域を形成し自然の良港を成しています。この海上を滑走路として水上飛行艇による空港ターミナル施設とするもので、通常滑走路を獲得するために海岸を埋立てるか、山を削って滑走路を建設することに対して、水上空港は海面の有効利用によるもので大きく建設費を抑えられる今日的なインフラ整備といえます。また航空機については、現在海上自衛隊が海難救助のために新明和工業製のUS-A1 機が活躍しております。これはYS-11機の生みの親である日本大学理工学部教授であった木村秀政氏によると世界に誇れる水上飛行艇の一つとして高く評価したもので、民間機として50名の搭乗が可能です。
本構想の推進のため、産学連携の「東日本復興水上空港ネットワーク構想」研究会を設立しました。この研究会では、外部研究費を資金の獲得を目指しています。その支援をもとに計画地域における各種ニーズ、これまでの高速交通体系や総合交通体系の構築に向けた取り組みを踏まえたうえで、地域特性に合致した新たな交通体系としての水上空港整備ならびに水上機(水上で発着する飛行機:飛行艇およびフロート水上機)を活用した航空輸送の導入、航空ネットワーク構築の可能性について研究を進めるものです。さらに、東日本における水上空港ネットワーク構築の可能性をテーマに調査・考察して、具体的な復興プランとして検討します。この中には、着水帯と航路における漁業権についての問題も加わります。そこで短中長期、超長期構想の中に、塩竈港、気仙沼港、宮古港等をケーススタディとしてまとめます。また、水上空港ネットワークの構想がもたらす効果や全国的展開の可能性についても検討を進めたいと考えます。
代表:伊澤 岬
(日本大学理工学部 特任教授)